学習塾と聞くと、みなさんはどんなことをイメージしますか。
勉強が難しそう、堅苦しい雰囲気・・?
あまり「楽しそうだな」と想像する人は少ないかもしれません。
しかし、子どもたちが行くことを心待ちにしている学習塾があります。
それは、福山駅から徒歩7分ほどの場所に位置し、ふくやま本通商店街の一角にある「非営利活動法人 学習支援ヴァパウス」です。
建物のなかへ入ってみると、子どもたちが制作したものがたくさん飾ってあり、にぎやかな雰囲気。
どんな空間なのか、子どもたちの過ごしているようすなどを紹介していきます。
教えない学習塾
「非営利活動法人 学習支援ヴァパウス」(以下、ヴァパウス)では、さまざまな事情で経済的に困窮している家庭や不登校といった子どもたちへ学習支援を行っています。
運営しているのは、木村素子(きむら もとこ)さんです。
ヴァパウスとは、フィンランド語で「自由」。
「子どもの自由な発想を大切にしたい」との想いが込められています。
学習支援をしていますが、ここでは勉強を教えることはしません。
勉強のやり方は教えますが、それ以外は必要以上に声をかけず見守ります。
答えはとことん自分で考えて導き出すことが大事だと、木村さんは言います。
あるとき、自己アピール文を書くことに悩んで、パニックになっている子がいました。
ここで大事にしているのは、対話をすること。
書くことが苦手な子へは、まず伝えたいことや想いなどをヒアリングをします。
ヒアリングをした内容は、箇条書きにして木村さんが整理をします。
それをメモにして渡し、本人へフィードバックするのです。
このことを繰り返すことで、だんだんとスムーズに書けるようになるのだそうです。
ヴァパウスでは、その日の計画は自分で立てて、それぞれ勉強をすすめていきます。
これは、「主体性」を伸ばしていくにはとても大切なことなのだとか。
ようすを観察して、困っているときだけサポートをする。
それが、ヴァパウスの学習スタイルなのです。
いただいた食材で愛情たっぷりの夕食も!
ヴァパウスでは、夕食も提供しています。
「そんなことまでしてくれるの?」と驚きですよね。
なぜ、学習塾なのに夕食まで提供しているのでしょうか?
塾に通っていると、帰りが遅くなり、寝る時間も遅くなってしまうこともあります。
すると、朝になかなか起きれずいちにちのスタートが上手く切れないと、保護者から相談を受けました。
木村さんは、宿題や夕食を済ませて帰すことができたら、保護者の方も助かるのではないかと考えます。
ヴァパウスを立ち上げた当初、地域の人たちが野菜や果物などを持って来てくれていました。
そのうち「これ食べて」と、おにぎりやからあげなどをもらうように。
それからだんだんと、地域の人たちから食材の寄付が増えました。
今ではその食材を使って、ご飯を作るまでになったのだそうです。
現在、ヴァパウスを利用しているのは20人ほど。
そのうち、1日に最大7~8人ほど子どもたちが来るそうですが、木村さんがその人数分のご飯を作っています。
あたたかいご飯を食べられるのは、きっと子どもたちも嬉しいですし、保護者にとってもありがたいことですよね。
想いをかたちに
活動を始めることになったのは、以前勤めていた職場の同僚から、ある子どもについて相談を受けたことがきっかけです。
その相談とは、同僚が住んでいる場所の小学校区域のなかで、よく夜にひとりで外にいる子どもがいるというのです。
聞くと、その子の保護者は仕事で忙しく、ひとりでいることが多いのだとか。
家に居ても落ち着かないので、公園で寝起きしているそうです。
「地域全体でなんとか助けることはできないか」
今までかかわったことのない子どもと接点を持つにはどうすればいいのか、木村さんは考えました。
そこで近くの公民館を借りて、地域周辺に住んでいる子どもたちで夏休みの宿題をするという企画をします。
チラシを配るなかで相談を受けている子へ接触でき、チラシを渡すことができました。
結局、企画へその子が来ることはなかったそうですが、徐々に声かけができるようになりその後少しずつかかわりがもてるようになったそうです。
公民館で夏休みの宿題をする企画は好評で、たくさんの保護者の方から「夏休みだけでなくこれからも続けてやって欲しい」という声が寄せられます。
それで立ち上げたのが「ヴァパウス」です。
地域の声から始まったので、みなさんとても協力的なのだそうですよ。
勉強することを諦めないで
さまざまな家庭の事情で経済的な困難を抱える子どもたちは、進学を諦めてしまうというケースも少なくありません。
経済格差によって学力に差がついてしまうのは大きな問題です。
「進学するためのお金は大人が出すから大丈夫だよ」
「自分たちが頑張れば勉強はどうにでもなる!だから頑張れ」
このことを子どもたちに伝えていきたいと、木村さんは言います。
自分のペースが保てる場所
ヴァパウスでは、時間はすべて子どもたちが管理しています。
ソファで寝始める子もいるそうですが、だれが注意をするわけでもなく、その状況を受け入れます。
子どもたちと接するときには、以下のことに気を付けています。
- 何事も口出しをせず見守る
- よく観察をする
- 声をかけるのは困っているときだけ
声かけをするときには「一緒に考えようか」と「手伝おうか」、この2つの言葉だけを使うのだそうです。
考えているときにアドバイスをしてしまうと、思考が停止してしまうので極力声は掛けません。
木村さんは、子どもたちにとって対等な人間であるということをいつも意識しています。
それが、居心地のいい居場所となっているようです。
塾というよりは、隠れ家のような秘密基地に近い感じなのだと、笑いながら話してくれました。
木村さんの思うローズマインド
子どもたちの発想や想いを大事にしている木村さん。
「ローズマインド」についてたずねてみました。
相手がいることが、ローズマインドの基本だと思っています。
以前、「思いやり」は独りよがりであってはならないと言ったことがあるんです。
それではただの「重い槍(やり)」になってしまうから。
相手を知り、自分を知ってもらうことからすべては始まるのではないでしょうか。
関係を築くことが大切なのだと話してくれました。
おわりに
気さくな方でとても話しやすく、インタビューの時間はあっという間に過ぎてしまいました。
やさしくあたたかな雰囲気だけれど明るい笑顔で自然とまわりが元気になる、そんな印象も受けました。
木村さんの存在があるから、きっと安心して過ごせるのでしょう。
ヴァパウスは子どもたちにとって、心の居場所になっているのかもしれませんね。